菅首相の退陣表明のニュースが、昨日3日の昼以降、大きく報じられました。コロナ感染症がかつてない広がりを見せる中でオリンピックの開催に踏み切ったこと、長く我慢の生活を強いられている国民に対して、メッセージが伝わりにくかったことなど、様々な要因が重なって信を失うこととなりましたが、この1年間、ろくに休むことなくコロナ対策の先頭に立ち続けてきた菅首相のご労苦に、まずは心より敬意を表したいと思います。

退陣表明後、自民党総裁を巡って様々な動きが出てきました。河野太郎・ワクチン担当相が出馬の意向を表明したのに加え、推薦人を募っていた高市早苗・前総務相を安倍晋三・前首相が支持するとの報道も。

新たな総裁は即ち新首相となるのですが、国民生活が引き続き混迷を極める現在が「戦時」にたとえられる中、自民党はコロナ禍の調伏に向けて我が国をしっかりと導き得る間違いのない人選をし、国民の負託に応えなければなりません。

こうしたことを考えたとき、郷土が生んだ烈士・中野正剛先生による「戦時宰相論」が思い返されます。日本が先の大戦において、拡大しきった戦線の維持に苦しんでいた昭和18年(1943年)元旦の朝日新聞一面に掲載されたこの一文は、言論統制厳しき折にもかかわらず、公然と時の宰相・東條英機首相を痛烈に批判しました。

以下にその一節を引用します。

戦時宰相たる第一の資格は絶対に強きことにある。【中略】国は経済によりて滅びず、敗戦によりてすら滅びず。指導者が自信を喪失し、国民が帰趨に迷ふことによりて滅びるのである。

【中略】大日本国は上に世界無比なる皇室を戴いて居る。忝けないことには、非常時宰相は必ずしも蓋世の英雄たらずともその任務を果し得るのである。否日本の非常時宰相は仮令英雄の本質を有するも、英雄の盛名を恣にしてはならないのである。日本の非常時宰相は殉国の至誠を捧げ、匪躬の節を尽せば自ら強さが出て来るのである。

【中略】難局日本の名宰相は絶対に強くなければならぬ。強からんが為には、誠忠に謹慎に廉潔に、而して気宇広大でなければならぬ。

中野正剛先生はこの寄稿によって権力側に睨まれ、そのことが後に、割腹による壮絶な死を遂げることの遠因になったと言われます。言論人として、政治家として、まさに身命を賭して世に送り出されたこの名文には、現在に相通ずる真理があります。

引用した箇所を私なりに今の言葉に置き換えるならば、「戦時の宰相に最も重要な資質は、強いことである」「宰相が自信を失い、国民が迷えば国が滅びる」「宰相が英雄であろうとしてはならない。誠心誠意、国に身を捧げ、国民に尽くすことで強くなるのである」「宰相が強くあるためには、誠実、忠実で慎み深くクリーンであり、大きな心構えを持っていなければならない」ということだと思います。

自民党総裁選はまだ顔ぶれが確定していませんが、戦後76年を経て、コロナ禍という国難に覆われる我が国をより確かに導けるのが誰なのか、どの候補者に戦時宰相の資質が備わっているのか、そのような視点で人選がなされることを期待します。

最後に私見を述べるならば、現政権の退陣につながる最も大きな一石を投じたのは、いち早く総裁選への再挑戦を表明した岸田文雄・前政調会長であるということは、少なくとも正当なものの見方だろうと思います。

時の宰相に引導を渡した人物が、果たして戦時宰相の器たるか否か。地方党員の一人としては、こうしたテーマを軸にしながら、総裁選の論戦に注目したいと思います。