前回の投稿ではアメリカ経済が急回復するのに反して、日本では円安とインフレ傾向が続いている客観的な事実を指摘した上で、その原因は「政府の財政出動の規模の差」や、「『失われた20年』とも言われる我が国の長期停滞の影響」にあるのではないかと指摘しました。

以下、詳しい中身について述べたいと思います。

①政府の財政出動の規模の差

今年2月の政府発表によると、我が国のコロナ禍以降の経済対策のための財政出動の総額は293兆円になったそうです。この金額は我が国のGDPの約54パーセントにのぼります。アメリカや欧州をはじめとする先進諸国において、対GDP比での財政出動としては最高水準になるとのことです。

対するアメリカですが、トランプ大統領の時期に約4兆ドル、バイデン大統領に交代してからも1兆9千億ドルをコロナ経済対策に支出しており、1ドルを125円とすると総額は737兆円あまりになります。日本の約2.5倍の規模感です。

このうち、全国民が対象となる個人への現金給付(所得により金額に変動あり)は3回にわたっており、すべての対象となる低所得者の場合は受給額が最大で合計3200ドル。1ドル125円で計算すれば40万円になります。

日本の人口が約1億2千5百万人、対するアメリカは約3億3千5百万人なので、その差は約2.7倍。財政出動(2.5倍)と人口規模(2.7倍)の対比にあまり差がないことから、両国では人口あたりの財政出動はほぼ変わらないことがうかがえますが、トータルでは大きな差があることは事実です。

前回の投稿で述べた通り、アメリカではウクライナ戦争以前からインフレ傾向が続いていますが、これはアメリカ政府の大規模な財政出動、国民への現金給付などにより、購買力が高まったことが理由だとする見方があります。その前段には、トランプ政権時代から継続する対中経済戦やコロナ禍による品薄感があるのだろうとは思いますが。

では、コロナ経済対策の財政出動で彼我にこのような差が出た背景は一体何なのでしょうか。

②「失われた20年」とも言われる我が国の長期停滞の影響

「失われた20年とは何か」については、このグラフを見ていただければわかるかと思います。※引用元の記事「『ファクト』から考える中小製造業の生きる道(2)」のリンクを掲示します↓

https://monoist.itmedia.co.jp/mn/spv/2104/19/news005.html

アメリカが一貫して経済成長を続けているのに対して、日本では1990年代後半を境に長期の停滞が続いています。一般に失われた20年とはバブル崩壊後の1990年代初頭からの20年を指しますが、最近では「失われた30年だ」という言い方もされています。

こうした経済成長の差が、コロナ経済対策において、日米政府の財政出動の明暗を分けたのではないかと思います。

次のグラフは財務省のサイトから引用します。G7各国の政府債務残高の対GDP比を示しています。日本の政府債務の残高は2020年末の時点で約256パーセントですから、借金はGDPの2.56倍です。対するアメリカの数字は127パーセントなので、GDPの1.27倍です。政府債務の残高が適正な範囲に収まっているかどうかについては、国際的には対GDP比で評価するのが一般的です。

細かい金額は省略しますが、日本の政府債務残高は1990年と2020年の比較で約5倍になりました。アメリカはというと、2001年からの20年間で5.4倍になっています。それにも関わららず日米の政府債務の対GDP比にこんなにも差が出ているのは、日本が経済成長をしていないからに他なりません。

日本の低成長の原因はデフレです。最近こそ、コロナ禍によるサプライチェーンの混乱や極端な円安、それに原油高などで我が国でも物価は上がっていますが、これらは「コストプッシュ型」と呼ばれる悪性のインフレで、経済成長の産物としてのインフレとは違います。我が国では失われた20年の間、物価も、株価も、労働者の賃金も、ずっと停滞し続けました。そして、こうした状況は(株価を除けば)現在に至るまでも続いているので、「失われた30年」という言い方は残念ながら、これから定着していくような気がします。

アベノミクス以降、政府の方針として明確に示されているように、我が国は一刻も早くデフレを脱却し、成長路線に乗らなければなりません。先述の通り政府債務残高は対GDP比で評価するのが国際標準ですから、経済成長はすなわち財政の健全化ともイコールだということができます。

だからこそ、コロナ禍においてアメリカは政府債務がドーンと増えてもさほど気にすることなく、思い切った財政出動ができたし、一方の我が国はどうしても見劣りする水準に抑えざるを得なかったのだと思います。

では、脱デフレのためにはどうすべきなのか?そのためには、「なぜ日本だけがデフレなのか」を考えなければならないと思うのですが、それらのことについては次回の更新で私見を述べてみたいと思います。

2回シリーズのつもりで書き始めましたが、どうやら3回になってしまいそうです笑。