自民党総裁選をめぐっては菅首相の退陣表明後、候補者の顔ぶれも出揃わないうちから「次の首相にふさわしいのは誰か」といったメディアによる世論調査が繰り返され、他方SNSなどネット上でも様々なアンケートが乱立の様相を呈しています。

しかし同じことを尋ねているアンケート調査なのに、傾向にはかなり大きな差が出ているようです。参考までに2つの調査を比較してみます。

まずは、これまで総裁選に関して2度の調査を行なっている共同通信から。首相の退陣表明直後の9月4日〜5日の調査では、「河野氏31.9%、石破氏26.6%、岸田氏18.8%」。これが総裁選告示後の17〜18日の調査では、「河野氏48.6%、岸田氏18.5%、高市氏15.7%、野田氏3.3%」となったようです。

一方で、SNSなどネット独自のアンケート(つまり新聞・テレビ等の調査結果を除く)では、私が幾つか確認することができた範囲ですが全てにおいて高市氏がトップになっています。

例示しますが、ヤフージャパンの「みんなの意見」というコーナーで9月6日から9月9日にかけて行われたアンケート(回答数23万5千余)の結果は「高市氏49.1%、河野氏26.5%、岸田氏11.3%、石破氏9.9%、野田氏1.1%」となりました。

メディアとネットの調査結果には随分と乖離があるのです。そして、こうした傾向は今回の総裁選に限ったものではなくて、私は以前から「一体なんでなんだろう?」とあれこれ理由を考えていました。

平成26年(2014年)の東京都知事選が、そのことに気づいた最初の選挙でした。メディアの調査は当選を果たした舛添要一氏が終始優勢でした。しかし、ネット上の調査では選挙結果で2位、3位だった候補者を飛び越えて、4位だった候補者が圧倒的に優勢になったものもありました(ちなみにこのときの4位の候補は「保守」を標榜するネットユーザー層の支持を受けていました)。

この大きな乖離はどこから生まれるのか。行き着いた自分なりの結論はわざわざ表明するのも憚られるくらい単純なものなんですが、結局は「調査手法の根本的な差」なのかなと思います。

ネット上の世論調査における意見表明の特徴は「能動性」にあると思います。先程触れたヤフージャパンのアンケートもそうですが、基本的には自分からサイトにアクセスをしなければ回答できないので、結果として「わざわざ手間をかけてまで意見表明をしたい人の動向」が色濃く反映されることになるのではないかと。つまりアンケートのテーマについて関心が高く問題意識がはっきりしている人たちの意見が反映されやすくなると思うのです。

逆に関心がさほど高くない層、支持する候補ははっきりしているけどもさほど熱烈ではない層(本稿ではこれらの人たちを『中間層』と呼ぶことにします)の意見はどうしても反映されにくくなるのではないでしょうか。

一方で、メディアの世論調査はというと、多くの場合が家庭の固定電話番号を無作為に抽出して電話をかけ、自動音声が主流だと思いますが特定のテーマについて意見を求める。得られたサンプルが偏る可能性がないとは言えませんが、「聞かれたから答える」という意見表明のきっかけはネットに比べれば極めて受動的なものになります。この手法であれば、中間層の意向が反映される可能性はより高くなると思うのです。

とまあ、何とも当たり前のことを今更書いたものではありますが、表題にある通り「雑感」であり、この程度の考察をきっかけに総裁選の動向について何をどうこう言うつもりはありません。むしろ、例えば市政で特定の政策課題について広く意見を尋ねるアンケートをする場面では、調査手法についてよほど慎重に考えなければならないのだなあ…ということに思い至ったことが、今回の考察の収穫だと思っています。