2月8日のブログでウクライナ情勢について所見を述べました。ウクライナのNATO加盟を棚上げして軍事衝突を回避しなければ、ロシアの侵攻は止まらないのではないかと、そんな心配を書いたのですが…。

棚上げするもしないも決まらぬうちから、有無を言わさぬ全面侵攻。プーチン(今日は意図的に敬称を付しません)の狙いは「ウクライナに親ロシア政権を樹立すること」であるとの観測が報じられていますが、迎え撃つウクライナ軍兵士の士気は高く、民衆も武器を取って頑強に抵抗をしているようです。

一方、先進諸国の対応ですが、日本も同調した経済制裁はかなり功を奏し、ロシアの通貨であるルーブルが暴落しているようです。一部新聞報道によると、ロシアの国民が預金引き出しに走っている様子も見られるとのこと。プーチンにとっても、国内世論の支持を保つことが難しくなっているのではないでしょうか。そう期待をします。

28日の夕刻に、ベラルーシでロシアとウクライナの代表団による停戦協議が行われているとの報道があります。即時停戦と、ロシア軍の無条件撤退以外の結論はあってはいけないと思いますが、とにかく、これ以上の血が流れないことを祈る気持ちです。

ウクライナが侵略されるのを見ていて他人事だと思えない最たる理由は、いまここで起きていることが遠くない将来に台湾海峡でも起こりうると感じるからです。報道によると中国政府の公式コメントはロシアのウクライナ侵攻に理解を示しています。「先進諸国による制裁が新たな問題を生む」などと、批判の矛先をあらぬ方向にむけているとの報道もありました。

恐らく中国は、今回のロシアの侵略行為に対する国際社会の反応、経済制裁の効果などを注意深く観察して、自国に置き換えながら台湾を武力制圧した後の事態をシミュレーションしているのではないかと思います。

ロシアのルーブルが暴落した最大の理由は、銀行間の国際取引の仲介を担うSWIFT(国際銀行間通信協会)からロシアの銀行を除外し、ルーブルを用いた貿易の決済を困難にしたことだと言われています。国際的な決済に使えないルーブルの信用はガタ落ちになりますから、暴落は必然の結果でなのでしょう。

一方の中国ですが、6年前に人民元国際決済システム(CIPS)を構築しており、日本の主だった銀行もこれに加盟をしているようです。この独自のシステムはどの程度、人民元の「防衛」に資するのか、台湾侵攻の際に中国の通貨に打撃を与えるような経済制裁を取ることは果たして可能なのか、先進諸国の側も様々なシミュレーションを積み上げておく必要があると思います。

それから、これはもしかすると日本政府が既に対応を明らかにしているのかもしれませんが、今回の経済制裁で直接的に損害を受ける我が国の企業に対して必要な保護を与えることは忘れてはいけないような気がします。例えば、ロシアに中古車を輸出して代金をルーブルで受け取る事業者、或いはロシアからカニやシャケなどの海産物を輸入して代金をルーブルで支払う事業者は、ルーブルが暴落した時点で大損をしているケースもあれば、そもそもロシアとの国際的な決済が止まってしまい、輸出した商品の代金を受け取れないケースなども想定されます。

こうした国内の事業者を一社たりとも倒産させないことが担保された経済制裁であるべきです。幼少の頃の遠足帰りに、小学校の先生方から「家に帰るまでが遠足ですよ」と指導された経験を、恐らく誰もが一度はしているでしょう。我が国の政府がいま倣(なら)うべきは、こうした先生方の姿勢ではないかと思います。

しかしながら、国際社会が本気になった経済制裁は、ロシアほどの大国にも激震をもたらすのだということを知らしめた今回の事案は、時代を完全に読み誤ったプーチンの汚名とともに歴史に刻まれるのだろうと思います。資本の自由な移動を通じてグローバル化した経済下では、よほど完全な「地産地消」で成り立っている国でもなければ少しの間も単独では立ってさえいられないのだという事実を、初めて実感をもって受け止めました。

報道によると、ロシアはルーブルを際限なく印刷することや、法定金利を9.5パーセントから20パーセントに引き上げることを公表するなど、国民の預金保護策を素早く示したようですが、それでも自国通貨の暴落を止められませんでした。このことを今日は、大きな驚きと深い感慨をもってここに明記しておきたいと思います。

残る不安は、プーチンがちらつかせる「核のカード」にどれだけの現実味があるのか。この点だけは本当に不安です。彼が万が一にもそのカードを切ったときには、被害のない国は地球上に一つもありません。くしくも報道されているプーチンの発言にはたった一つだけ真実があります。

「核戦争に勝者はいない」と。

私がここに何を書こうとも彼に届きもしなければ、私のサイトごときがよもやサイバー攻撃を受けることもないのですが、本稿の結びにかえて呼びかけます。

プーチンよ、まずは落ち着け。むき出しの核のボタンを注意深くしまい、そして兵を引け。ロシア国民もきっとそうだろけれど、人類は誰一人として、あなたとの心中を望んでいない。