今朝の新聞各紙では、昨今のありとあらゆる生活必需品の価格高騰対策として、福岡市が10月から11月にかけて検針する分の下水道代を無料にすると発表したことが報じられました。

報道によると対象世帯は約88万世帯。必要な経費は約23億円とのことなので、単純計算すると1世帯あたり約2600円の負担軽減になります。参考に毎日新聞の今朝の記事を引用します。

原資になるのは国が物価高騰の対策のために地方自治体に措置した交付金(福岡市は38億円)。物価高騰の影響は全ての市民に及んでいる現状に鑑み、広く浅く配ろうという考え方に立って下水道代を選んだことには一定の道理があると思います。

ですが、「これが現状の最適解だと思うか?」と問われれば、答えは「ノー」です。

そう感じる理由は非常にシンプルで、今は「価格高騰を少しでも抑制するため」に、お金を使うべきだからです。

農産物の生産を例に取ります。最近は「もやし」を一袋買うのにも、以前よりわずかですが値段が上がりました。これは生産者がもやしの種である「緑豆(9割が中国からの輸入)」を買う段階で既に値段が上がっているからです。昨年比で2割程度、値上がりしているとのこと。

さらに、もやしを生産するためにはボイラーで水を温める必要もあれば、出荷するためには石油由来の素材である袋に小分けをしなければなりません。言うまでもなく原油価格は高騰しているので、生産段階の全てにおいてコストアップの影響が及びます。

もやしは肥料を使いませんが、その他の露地もの野菜の生産者は肥料の高騰にも頭を悩ませています。31日の日経新聞の報道によるとJA全農が6〜10月に販売する肥料の価格は昨年比で9割高となり、過去最高の値段となるそうです。

また今日の朝日新聞の報道によれば、国内の農業法人の70パーセント超が、肥料などの値上がりを「価格転嫁できていない」と回答しているそうです。農産物には今後さらなる値上げ圧力がかかっていくとみて間違いないと思います。

最終消費者である市民の家計負担が増大していることは大変由々しき問題であることは間違いありませんが、とりわけ農産物に関して言うと、スーパーで買う人よりも先に生産者の負担軽減に取り組まなければなりません。

その最たる理由は、「生産コストが上がったことによって、作ること自体をやめてしまう生産者が出ると、品薄感から更なる値上がりにつながりかねない」から。さらに言えば、作ることをやめてしまう生産者が出ることによって、農産物の供給そのものが滞ってしまうことこそ、真に危惧すべき事態であるからです。いくらお金を積んでも、食べたいものがスーパーに並ばなければ、私たちは食べることはできません。

今回はもやしを例に取りましたが、我が国における野菜全般の平均的な自給率は約8割です。ただでさえ、国民の食を守る観点からもこの数字は絶対に下げてはならないのですが、こうした「食料安全保障」の観点はもちろん、政策資源を投入する際の効率性の観点に立っても、価格高騰の抑制は生産者の段階でこそ図られるべきであり、それが幅広く最終消費者の負担軽減につながるのだと思っています。

一方で、私がここで述べたことは、自治体レベルでと言うより、まずもって国において取り組むべきことでしょう。農業・水産業をはじめとする第一次産業の保護に向けて、国はもっと危機感を持って積極的な施策を打つ必要があります。ただ、そうは言いながらも福岡市の年間の農業生産高が令和元年推計で約64億円であることに照らすと、国から措置された38億円は市内の生産者保護、ひいては市内産農産物の価格高騰の抑制を、年間を通して実施するのに十分な額であることも事実です。

一世帯平均で約2600円の下水道料値引きの効果は、下水管に吸い込まれて流れてゆく水のごとくにすぐに消えてしまいます。同じ量の水でも、畑に少しずつまいて使えば長く役に立つだろうにというのが、私の端的な問題意識です。

一方で昨日はこの他にも、保育や学校教育における給食費の負担増を抑制することや、学校給食で地元産の水産物を保護者負担の増加なしに2回提供することなど、非常に意義深いと感じる支援も発表されました。

特に後者は、生産者支援にもつながるもので、単発で終わらせることなく今後も継続した取り組みになることを大いに期待します。

いずれにせよ、目下のさまざまな生活必需品の価格高騰は、ロシアのウクライナ侵攻や中国のゼロコロナ政策などによるサプライチェーンの混乱や円安などの影響によるものと指摘されます。ウクライナでの戦争はさらに長期化し、円安は今後も進む恐れがある中で、家計の防衛はさらに苦しくなることが想定されます。

最終消費者である市民の暮らしを守るためには、まずは生産コスト、次いで流通コストの抑制が欠かせません。これらのことを全ての生活必需品に渡って対策していくのは、自治体の財政では恐らく難しいことですが、こと一次産品に的を絞る覚悟さえ持てば十分にやれることがあります。そんな視点で今後の価格高騰対策の議論に参画したいと思います。